一体いつ頃からモチベーションという言葉が使われるようになったのでしょうか。あがるとか下がるとか言いますが。
これまでを振り返ってみると、この「モチベーション」という言葉を口にする人でプロ意識あふれる方にお会いしたことはない気がしています。
いまひとつキリッとした印象が薄いです。
これは一体どういう現象なのでしょうか。
そこで今回は「モチベーションとは?」の私なりの答えになるお話があるのでご紹介したいと思います。

嵐の中でも練習するチーム
1980年代、当時の日本のマラソン界は国際マラソンで優勝するランナーが何人もいて、そのレベルは世界トップ級でした。
そんな中、台風の中でも休まずに、ものすごい形相で走り続ける陸上部がいました。
それは、九州の宮崎を拠点とする長距離界の名門、旭化成陸上部です。
今では駅伝ファンなら誰もが知る常勝軍団ですが、その礎はこの80年代に作られたのではないかと思っています。
当時、彼らにはある合言葉がありました。
「おい、東京は晴れているぞ!」
彼らにとっての東京とは、マラソンで何度も逆転負けをし悔しい思いをさせられたライバル、SB食品の瀬古利彦が練習拠点としていた場所を意味します。
当時の瀬古選手は世界最強ランナーと言われていました。
旭化成にも五輪代表である宗兄弟がいたのですが、後半のラストスパートで瀬古選手に逆転負けを喫した苦い経験があったのです。
「次こそ瀬古に負けるものか」その思いが彼らを突き動かしていました。
今度こそ俺達の後ろを走らせてやる。高校・大学と陸上エリートだった瀬古君が練習するのなら、自分達はその2倍は走って当然だ。
そんな思いがあったのだと想像します。
台風が来ても練習をやめようとしない陸上部はもはやキチガイ扱いされていました。
マラソンは距離が42.195kmなので、他のスポーツ以上に一朝一夕では成果が出にくい競技です。身体への負担が大きく、練習そのものが難しいことからも、練習量がそのまま結果に結びつきやすい競技の一つです。
怪我や足の負担を考えると、1日に走れる距離は限られていることから、1日でも無駄にすると、そう簡単には取り返すことができません。
やりすぎると即オーバーワークになり、それはケガすることを意味するからです。
とはいえ、練習は想像以上にきついので、そうとは分かっていても高い質を保ちながら練習量を計画通り全てこなすことは至難の業です。
身体には理屈ではどうにもならないほど疲労が蓄積している上、その中で怪我を予防しながら気持ちを強く持ち続けなければならないからです。
私は、この嵐の中のマラソン練習に象徴されるような、やる気やロジックだけでは身体が言うことをきかない状態の中でも気持ちを強く保ち続けるものこそモチベーションの正体だと思っています。
当時の旭化成陸上部では、練習が終わると声も出ないほど毎日追い込んで走り込みをしていたはずなのです。
日頃から誰も真似できないような世界一厳しい練習をしていたので、嵐が来た時に練習を休みにすることに誰一人として疑問を持つこともなかったはずです。
休みにする判断を怠けているとか妥協していると非難する余地は一切なかったからです。
世界を目指していたからと言っても、彼らですら理屈ではどうしようもないくらい疲労が溜まった身体と付き合っていたのです。嵐が来れば胸を張って練習を休みにすることにためらいはなかったはずです。
「おい、東京は晴れているぞ!」
そんな中でも、この言葉が彼らのモチベーションを駆り立て続けたのです。
モチベーションの誤解とは
私の理解では、モチベーションとは、こういう場面で使う言葉だと思っています。
実生活では一切使うことはないですが、もしこの言葉を使うことがあるのなら、これくらい高いプロ意識と目的意識を兼ね備えた状況に身を置く者が使う言葉なのだと思うのです。
だから、まだそこまで仕事ができない人が「今日はなんだかやる気が出ない」と感じた時に軽々しく使う言葉ではないのです。
そもそも「やる気」は誰かに与えてもらうことでも、何かの外的要因によって手に入れるものでもありません。
モチベーションという言葉を使う人には、まずは旭化成陸上部のようにキチガイ扱いされるくらい高い目標をかかげてほしいと思います。
そのために誰より厳しい練習を自主的に課すのと同じレベルで目の前の仕事に向き合ってほしいと願います。
もし、モチベーションを口にするのであれば、それができた後のことなのでしょう。
そこから更に状態をあげる時、言い換えれば、誰一人としてそこまで高いレベルまでは要求できない行動をする際に使うものだと思うのです。
とはいえ、そのレベルまで成長した暁には、この言葉を使わなくなっていることと確信いたしますが。
これが、私にとってのモチベーションの定義です。
みなさんは、周囲が理解すらできないようなキチガイじみた高い目標を掲げていますか。
それに向かってキチガイじみた行動を続けていますか。
最後までお読みいただき誠にありがとうございます。
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