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中田英寿のキラーパスに隠された戦略

執筆者の写真: ナカジマナカジマ

更新日:2023年2月1日


経営戦略とか戦略的とか。平和な時代で戦争が遠い存在だからなのか、なにかと「戦略」という物騒な言葉を耳にします。


一方で、「あなたの戦略は何ですか?」と聞くと多くの人が絶句するというのが現状のようです。実のところ「戦略」とは一体何なのかの定義すら持っていない人がほとんどだと思っています。


それなのに、どういう戦略が優れた戦略ですか?と聞くと「分かりやすくて誰もが納得しやすい戦略」と言う人がいます。「なるほどね〜」と相づちを打ちつつ「戦略の定義をもっていないのに矛盾も甚だしい」と呟いてしまいます。心の中でですが。


では、どんな戦略が良い事業戦略と言えるのでしょうか?

僕の理解では「少々理解し難く、周囲に誤解される」くらいの戦略が筋の良い戦略の特徴であると思っています。少なくとも当初は周囲に反発を食らうくらいの複雑なものであってほしいと思います。



ワールドカップ初出場は偶然でも根性でもなかった

ここで、一つの例として、良い戦略をサッカーに例えてみましょう。


約25年前、日本が初めてWCフランス大会へ出場した当時、あるいは、それ以前のオリンピック代表の「マイアミの奇跡」の頃の中田英寿選手のパスが良い戦略を説明するには分かりやすい例だと思っています。


当時、日本代表チームでは中田のスルーパス(キラーパスと呼ばれていた)に追いつける選手は少なく、そんな中で彼からフォワード選手への指示は「もっと速く!」だけでした。


あとは自分で考えろ。どうしたら俺のパスに追いつけるか考えろ。日本代表がこの程度のパスに追いつけないでどうする。というメッセージがあったのだと僕なりに解釈しています。


そのパスは、彼がパスを蹴ってから味方選手が走ったのでは到底追いつけない鋭いパスでした。キラーパスと呼ばれた彼のパスは、あまりに鋭すぎたからか周囲からは「わがままなパス」と批判を浴びることもありました。


当時は三浦カズ、ゴン中山等ベテラン陣に囲まれ、中田はレギュラーメンバーではおそらく最年少だったはずです。


ブレなかった最年少プレーヤー

それでも中田はブレることなく、相手の陣形にスペースを見つけてはパスを蹴り続けました。手加減せずに。そのパスをフォワード選手は必死に追いかけ続ける時期が続きました。


やがて、何ヶ月もやっているうちに、中田がボールを蹴る前からスペースへ走り出さないと彼のパスには追いつけないとメンバーが気づき、全体としてそういう動きが徐々に出始めたのです。


それを続けているうちに、いつしか選手自ら「スペースを見つけて走り出す」ことが日本代表チームの文化となっていったのです。


ボールが自分のところへ来ても来なくても全員がスペースへ向かって全力で走り出す攻撃スタイル。今では当たり前となっているパスサッカーの定石が当時の日本代表チーム内に自然な流れで育まれていったのです。


言うまでもなく、多くの選手がさも自分にパスが来るかのごとくスペースへ向かって走り始めるチームは、相手チームからすれば驚異であり、分かっていても守りにくいものです。


そのおかげで中田のパスは以前にも増して味方選手に通りやすくなりました。彼のパスは度々ビッグチャンスを演出することになり、チームはいつしか中田のパスを中心に攻撃を組み立てるようになったのです。


批判されることこそ試金石

こうして中田は自らの成果によってチーム内での存在感がさらに増し「中田にボールが渡った瞬間に全員がスタートを切る」日本チームのスタイルが確立したのです。

この文化にさらに磨きがかかり、日本代表チームはますますレベルアップしていきました。


まさに、中田の「我がまま」とまで批判された鋭いパス(戦略)が、代表選手一人ひとりが自主的に意識を変えるきっかけを作り、その流れの中でチーム全体に良いスパイラルを生み出してきたのです。


こうしてサッカー日本代表チームが世界レベルに徐々に追いついてきました。その証として念願だったワールドカップへの出場を果たしたのでした。


偶然でも運でも根性でもない「必然」が産んだワールドカップ初出場だったのです。


更にその後、中田はワールドカップでのプレーをきっかけにセリエAからオファーがあり、世界のNAKATAへ羽ばたくことになったのですが。


僕は、ここまでのストーリーを、彼が戦略として見定めていたと確信しています。真実が本人の口から語られることは一生ないのでしょうが。


この一連の結果は、批判を浴びながらも自らの方針にブレなかった中田英寿と、彼のブレないやり方(戦略)をあきらめずに実践し続けてきたチームがそろってはじめて成し得た結果なのです。


決して運や時代の流れという外的要因ばかりではなく、彼の頭の中には必然のストーリーがあったのです。


要約するとこんな感じでしょうか。

①ブレずに鋭いパスを蹴り続ける→ ②チームメイトが追いつけない→ ③パスが来る前に走り始める必要性に気づく→ ④やがてそれがチームの文化になる→ ⑤相手チームが守りにくい攻撃の形ができる→ ⑥より中田のパスが通りやすい環境が整う→ ⑦より中田のパスが決定機を演出する→ ⑧実績から自然と中田のパスを中心にチームが動くようになる→ ⑨自然な流れでチームの文化が変わりレベルアップし他国の驚異となる→ ⑩ワールドカップ出場


周囲から批判を浴びてもブレずに自らの戦略を信じる

このサッカー日本代表の例のように、①良い戦略と②それを理解して先頭に立ってブレずにやりきるリーダーがいるという2つの要因が揃えば、時間は多少かかったとしても期待した結果を必然の中から意図的に生み出すことができるのです。


みなさんは中田選手のパスのような切れ味鋭い戦略をお持ちですか?

それは、周囲の批判にも信念を持ち、ブレずに行動し続けられるものですか?

そして、それを信じて実行し続けてくれる士気高い仲間はいますか?


最後までお読みいただきありがとうございました。


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